えびすや日記

             

えびすや家づくり勉強会第5回

「よい家は温熱に優れている」前 真之氏

今回の勉強会は、「あたらしい家づくりの教科書」の中で東京大学大学院准教授前 真之氏の文章をテキストとして「よい家は温熱に優れている」をテーマに勉強をしました。

このことは、逆に言えば「温熱に優れていることが何故いい家なのか?」という問いに答えることと同じです。

この問いに答える前に、前氏は「そもそも温熱に優れている家を建てることは難しい」ということを関東近郊で2009~2014年度の間に新しく家を購入した人を対象にしたアンケート結果をもとに述べています。

このアンケートでは、購入する前に自分や家族や設計士が大事だと思って検討した事が、住んでみてどうだったかということが問われています。

その結果は、まず大事に思ったことの1,2番目の項目は間取りと耐震性能です。耐震性能が上位に来るというのは、関東近郊という地域性もあるのかなとは思います。この二つの項目は住んだ後の満足度も同じ高評価の1,2番目になっています。

ところが大事に思ったことの3番目の室内温熱環境、言い換えれば冬暖かくて夏涼しい家がいいということへの住んでみての満足度は上から11番目下から6番目で満足度が低い方に入っています。

また、同じく省エネ性能の項目を見て頂くと購入前の重要度も上から11番目と低いですが、住んでみての満足度は上から15番目、下から2番目となり散々な結果となっています。

施主も設計者も、住まいの温熱環境は大事だと思っていたにも拘わらず実際にできた家は満足度の低いものだったということです。

このアンケートは今から8年以上前に行われたものなので現在では少し事情が変わっていると思いますが、こうなってしまった原因は、住む人も設計者も建てた工務店も皆、温熱環境についての認識が足りなかったということです。

かくいう私も8年前にパッシブハウスジャパンやハウスでオーガニックに参加させて頂いて、温熱についての知識を得るまでは、同じく認識が足りていませんでした。

最近でも、これから家を建てようという方や、他の工務店の方との話の中で、温暖な岡山県南地方では、樹脂サッシやトリプルガラス、付加断熱(外壁の外側にする断熱)は必要ないというように言われる事があります。

8年前に私が思っていたことと同じようなことを現在でも思っておられる設計士さんや工務店さんもまだまだ多くいらっしゃいます。下の図を見て頂くと樹脂窓に比べてアルミ枠のペアガラスの断熱性の低いことが良く分かります。

1. 樹脂フレーム+トリプルガラス (熱貫流率0.90)
2. 樹脂フレーム+複層ガラス (熱貫流率1.31)
3. 樹脂とアルミの複合サッシ+複層ガラス (熱貫流率2.33)
4. アルミサッシ+複層ガラス (熱貫流率4.65)


前氏はこの文章の最初に温熱環境に優れたいい家を建てるには、まず、そのことについて必要な知識を備えた設計者や工務店を選ぶ事が大事だということを述べられています。

その上で、いい家をつくるためには、暑い寒いのストレスを感じることなくずっと居続けることのできる空間をつくることが大事です。
そのためには、家の壁や屋根、天井、床といった外部と接する部位や窓をしっかりと断熱することが何よりも必要です。
中途半端な断熱性能で、足りない部分をエアコンやストーブとかの設備で補っても、決して快適な空間にはならないということを、たくさんの実験結果やその時の赤外線写真、そしてイラストで分かりやすく解説しています。

上の図は、断熱性能の高い部屋と低い部屋の赤外線写真ですが、断熱性能の高い部屋の方が低い部屋より少ないエネルギーで快適な温度になるということが分かります。
さらに以下の図では、断熱性能の低い部屋では冬は暖房をしても暖かい空気は部屋の上部に溜まって足下は冷たいままで、夏は、天井や壁窓からの熱で中の人間が蒸し焼きになっているように見えます。

また、「ニセモノのエコハウス」に騙されるなと、述べられて、現在政府が進めているZEH(ゼロエネルギーハウス)についても、不十分な断熱性能で不足分をを太陽光発電で賄うという政府の方針について反対を表明されています。

下の表を見て頂くと、ZEH基準の断熱等級はUA値が0.6であり、HEAT20の推奨するG2グレートにも達していません。
躯体の断熱性能が低いと先ほど見て頂いたように、中にいる人にとって快適な環境にはなりにくいので太陽光発電をつけるなら、断熱性能を等級6とか7にしたのち余裕があれば付けたらいいということです。

下の図は北海道と東京の高性能住宅の遠赤外線写真です。着衣の差を除いて冬(左)も夏(右)もほとんど変わりません。このように温度ムラがなく夏も冬も同じというのが究極の温熱環境だと前氏は述べられています。。

結論として今回の前氏の文章で氏の言いたかったことを一言で表すならば「いい家を建てようと思うなら、温熱環境に関する正しい認識を持った設計者や工務店を選んで、断熱性能を高めることに重点を置くことが大事だ」となります。

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